じゃじゃまる(30代 男性)
20代のころ「好きなことは?」と聞かれたら必ずこう答えていました。
「酒、女、パチンコ!」
ええ。クズです。
ホストをしていて固定客もいたので、収入にはあまり困ることはありません。
A子の出会い
そんな私にはことあるごとに転がり込むA子という女性がいました。A子は元々クラブのお客でしたが、友人に連れてこられるタイプで細客(お金をあまり払わない人)だったので、他のホストからは距離を置かれる存在でした。
何度か他のホストが太客にしようとしましたが、あまり興味を示さなかったのです。友達のために来ている雰囲気が漂っていて、正直ホストクラブ自体はあまり好きではなかったと言います。
そんなA子も私と話す時は普段よりも口数が多かったため、一応、私の固定客になりました。連絡先を交換したのも私が初めてでした。
ある日、A子の友人が来ているのに、A子本人がクラブに来ないことがありました。理由を聞くと二人でケンカしたことで、もう連れてくることをやめたそうです。
お客はお客なので、店からは「一応おまえからアポとって、別でつながるかどうか確認してくれ」と言われ、連絡しました。細客なのでそこまで追いかける必要はないとも言われていました。
A子に連絡すると、最初こそ警戒されましたが次第に会話がはずみ、それから少しずつクラブと関係ないところで会うことが増えました。部屋に招かれて食事を振る舞ってもらうようになって、次第に彼女に依存していくようになっていきました。
ただ、最初に言ったように私は、酒と女とギャンブルが好きな性格。それ以外のことには、何かとウソをついてお金は使わないという習慣が染みついていました。
ほかの女性とも関係を続けていて、自分の中では「A子は数いる女の中の一人」程度に思っていたのです。
彼女に嘘をついて・・・
ある日、私は彼女を大きく傷つける行動をしてしまいます。
パチンコで大負けしていた時に追加でお金が欲しいと思い、誰かにせびろうと思ったのですが、そこから近いのがA子だったのです。しかし、A子はお金に厳しく、ふつうに言ったのではお金を貸してくれません。
そこで「ごめん、人とぶつかってケガさせたから、慰謝料を払わないといけない」とウソをついて、彼女を呼びました。もう最低です。
指定した場所に来た彼女は、本気で私を心配している様子でした。
それにも関わらず、私は「ウソで~す!!パチンコ代がほしかっただけ~!」とふざけてしまいました。
すると、彼女は「本当に心配したのに!」と言ってその場で崩れ落ちるようにして泣き出してしまいました。その頃の自分にはなぜそこまで泣くのか理解ができませんでした。単純に人間として幼かったのです。
A子と連絡が取れなくなる
それからA子とは連絡が取れなくなります。気付けば部屋も引っ越していて、完全に音信不通な状態になったのです。
その時になってやっと自分の過ちと、A子が自分にとって大切な存在だったことに気付かされました。A子を失ってからはホストの仕事も身が入らなくなり、結果的に指名も減っていきます。
いろんなやるせなさが押し寄せてきて、最終的にはホストをやめることにしました。
しばらくは何もやる気が起きず、あんなに好きだったパチンコすら楽しめなくなっていました。
ただやはりお金にも限界があったため、再就職先を探さなければなりません。ほとんどホストとして過ごしていたので、その強みを生かせると思い、営業職を中心に面接を受けることにしました。
その判断は結果的に良いものでした。
最初こそ苦労しましたが、先輩上司の教えもあり「相手の立場に立ってセールスする」という姿勢が身につき、営業成績で何度もトップに立てるようになったのです(ホスト時代はナンバーにもなったことないのに・・・)。
しかし、それは同時に辛いものでした。「相手の立場に立って考える大切さ」を知れば知るほど、あの時A子をだましてお金を手にしようとしたことの後悔が膨らんでいったのです。
男女というよりも、人として謝罪したい気持ちでいっぱいでした。
4年後の再会
気付けば営業職を始めて4年が経過したころ、なんと街でたまたまA子を見かけたのです。その時は本当に体が勝手に動いて彼女に声をかけていました。
「A子?」
急に声をかけられてA子は驚いた様子でした。私だと気づくのにも少し時間がかかったようです。
「〇〇だけど、あの時のこと謝りたくて・・・。オレクズだった。本当にごめん」
そう言うと、A子はやっと「ああ・・・〇〇?」と思い出したかのうように答えてくれました。
少し気まずい空気が流れてから、A子の目からは涙がボロボロあふれてきました。
「ずっとずっと傷ついてた・・・」
その言葉に、私も胸が締め付けられる思いでいっぱいになりました。
「これまで後悔してて、ずっと謝りたかった。本当にごめんなさい」
そして頭を下げました。
A子は、
「ありがとう。謝ってくれて」
と一言で返してくれました。
それからはお互いがどのように過ごしてきたかの話になりました。
私が営業職をしていると伝えると「話すの上手かったもんね?」「すごく似合ってると思う」と言ってくれて、自分でも仕事に誇りを持てているのですごくうれしかったです。
A子は広告のデザイナーとして毎日を忙しくしているようでした。
また、
「〇〇は私が初めて本気で好きになった人だったんだ」
「だからあの時、嘘をついてお金をせびってきた瞬間はものすごく裏切られた気持ちになったの」
ということもA子は教えてくれました。
私も、
「一緒にいた時は自覚できてなかったけど、こんなに自分のことを大切にしてくれる女性と初めて出会ったんだ。」
「けど、あのころの自分は人として幼かったから、A子に依存するしか方法を知らなかった」
と伝えました。
それから再度、連絡先を交換してちょくちょく会うようになり、私から結婚を前提にお付き合いできないか伝えてついに復縁しました。
A子は今でもいつまでも私にとって一生大切にしたい存在です。