みつひと(40代 男性)
彼女とつきあい始めたのは大学2年生のころ。
学部は違いましたが、元々同じサークルで顔なじみだったこともあり、友人のような関係から、少しずつ恋愛対象になっていきました。とても話しやすく、そのまま結婚しても良いと思うほどでした。
しかし、大学3年ごろから彼女が少しずつ変化していきます。話しかけても気持ちここにあらず、という場面が増えてきたのです。
最初は「就職について考えているのかな?」なんて軽くとらえていたのですが、それはどんどんエスカレートしていって、デートをしているのにほとんどこちらの話を聞かなくなっていきました。
「会わせたい人がいるの」
そんなある日、彼女から待ち合わせ場所と日時を指定されることがありました。それだけならまだしも、「絶対に遅れないでね!」と念を押されたのです。
「今まで待ち合わせ時間に遅れたことはないのに、なぜわざわざそんなことを言うんだろう?」と妙な胸騒ぎがしました。
約束の日時通りに指定されたファミレスに行くと、彼女があきらかに落ち着かない様子で私を待っていました。
そして到着早々、彼女は私にこう言いました。
「会わせたい人がいるの」
そのときは、「あ~おれは振られるのか・・・」と思いました。
けど、ここのところ彼女の様子を見ると、自分と一緒にいても楽しそうじゃないし、「新しい男ができたなら素直に身を引くか」くらいの覚悟はありました。
しかし、実際は予想とはまったく違う方向で話が進んでいったのです。
謎の年配女性
彼女が会わせたいと言って連れてきたのは、なんと高級そうな指輪やネックレスをまとった40~50代ほどの女性だったのです。
そして、その女性は「あなたが○○さんの彼氏さん?ちょっとお話があるの!」と本題について話し始めました。
要約すると、
- あなたの彼女は今、夢のある仕事をしている
- 親と子というシステムで収益を上げるビジネスモデルで、将来的に大金を手にする
- 親を中心に子にこのビジネスを紹介していくとどんどん収入が増える
という、一言で言うと「紹介制ビジネス(マルチ商法)」の勧誘だったのです。
女性はまくし立てるように自分のビジネスの良さを語っていて、隣にいた彼女はあいづちを打ちながらその話を聞いていました。その女性が話す姿に目をキラキラさせていたのです。
関係が破綻
30分くらい一方的に話しを聞かされたでしょうか。女性は締めくくるように「お二人の長い将来にもメリットしかないと思うの!ぜひ考えてみて!」と言った後、彼女に軽く挨拶して店を出て行きました。
彼女は何度もお辞儀しながら女性を見送ったあと、私のもとへ戻ってきて「すごいでしょ?」と言ってきました。
私としてはなにもすごいとは思わず、正直に「ねずみ講じゃん」と伝えると、彼女の目がカッと鋭くなって、「ねずみ講じゃないよ!MLM(マルチレベルマーケティングの略)っていう立派なビジネスよ!」と怒鳴りだしたのです。
お互い大学生という若い年齢だったからでしょう。そのまま感情が伴う激しい口論になり、そのまま別れることになりました。それからお互い連絡は一切取らなくなりました。
その後の彼女
数か月後、彼女は大学を辞めました。
私は彼女と連絡を取っていなかったので、共通の友人から聞いて知ることになります。
友人の話によると、
- サークルメンバー
- 大学の友人
- 助教授
にまでマルチ商法の勧誘をして、その人たちから距離を置かれるようになったそうです。
その内一人の勧誘に成功したそうですが、結局は大学に居づらくなり、退学してしまったのです。
あれだけ知的で優しかった彼女のことを知っていたからこそ、それが本当に同じ人間の話なのか信じられませんでした。
同時に彼女をそんな姿にしてしまったマルチ商法に対しては強い嫌悪感を覚えました。
彼女「久しぶりに会わない?」
社会人になってコンサルティング会社に勤めて忙しくしていたころ。
突然彼女から連絡が来ました。
「久しぶりに会わない?」
彼女がその後どうなったのか気にはなっていたので、「いいよ」と返答して待ち合わせすることになりました。
そして約束の日。
長い時間が空いたからか、自分が社会人経験を重ねたからか、付き合っていたころの思い出がそうさせたのか・・・待ち合わせ場所に現れた彼女は、とてもきれいだと感じました。
そして近くで予約していたピザ屋に入り、大学時代の思い出話で盛り上がりました。一度は結婚まで考えたほどの相手だからこそ、相性が良いのも当然です。
ある程度思い出話が終わったあたりで、彼女がこう切り出しました。
「私たちもう一度やり直せないかな?」
正直、こんなに楽しく会話したのは久しぶりだったので、すぐにでもOKを出したかったです。
彼女との破局は決定的に・・・
しかし、そもそも二人が別れた原因も忘れていませんでした。
だから、「いいけど、例のビジネスはもうやめたの?」と尋ねると、彼女は気まずそうな顔をしてこう言いました。
「まだ続けてる」
それを聞いてから少し怒りのような感情が湧きましたが、大学生のころとは違う対応ができるほどに冷静でもありました。
「俺たちが別れた理由は忘れてないよね?そのビジネスをやめないことには、そもそもの話が進まないよ?」
彼女の返答は、
・
・
・
「やめられない」
でした。
それから、彼女はまたマルチ商法について熱く語りだしたのです。
私は彼女の話を遮って、「もう無理だね。ここはおごるよ。今後は連絡してこないでね」と伝えてその場を後にしました。
「あの人」がいた
会計を済ませて外に出ると、お店の向かい側に人が立っているのが見えました。
かつて彼女がファミレスに連れてきたあの年配の女性です。
偶然居合わせたわけではないのは明らかでした。こちらに気付いたのか、サッと目をそらす動作まで確認できました。
(なんだ・・・そういうことか)
すぐさまそこを離れて、情けないですが、近くにあったショッピングモールのトイレでボロボロ泣きました。
- 彼女は本当は助けてほしかったのではないだろうか?
- うまく説得できたのではないだろうか?
と、いろいろ思いました。
携帯を見ると一通のメールが届いていることに気付き、開いてみると大学の友人からでした。
「〇〇がまた勧誘してるみたいだから注意しとけよ~」
おせぇよ。